分け合う生き方

教師になって、たくさんの子どもたちと出会いました。

その中に、進学するかどうか迷っていた男子生徒がいました。

やんちゃで、先生にも平気で挑んでくる。

でも私は、彼のことを「問題のある子」とは思っていなかった。

あるとき彼は、

「高校には行かない」 と言った。

でも私には、

「行かない」のではなく、「行けない自分を認めたくない」 ようにも見えた。

お父さんは彼に伝えた。

「勉強ができた方がいいからじゃない。
友達は多い方がいい。
楽しい思い出も多い方がいい。」

彼は進学に挑戦することにした。

放課後、一緒に勉強した。半年間、頑張った。

でも、なかなか点数は上がらなかった。それでも、あきらめなかった。

そして、受験。

結果は不合格。数日後、彼は学校にやってきた。

遠くから大きな声で、

「先生!高校、あかんかったわ!」と叫びながら近づいてくる。

私は何を言えばいいのか分からなかった。

彼が目の前まで来て、もう一度、

「先生。高校、あかんかったわ」と言った。

私は、彼を抱きしめた。

彼は涙をこぼしながら、

「親父の夢、叶えられなかった」 と言った。

その後、彼はもう一度チャレンジした。奇跡的に合格した。

修学旅行にも行くことができた。

後日、私のところにお土産を持ってきてくれた。

……でも、その翌日。

彼は高校を辞めた。(笑)

今思えば、「必要だから高校に行かせた」なんて話ではない。

ましてや、「教師として彼の人生を変えた」なんて、とても言えない。

ただ、

私が、そうしたかった。

彼と一緒に勉強したかった。彼に挑戦してほしかった。

それだけだったのだと思う。

そして、彼がその後どう生きるかは、彼の人生だ。

振り返ると、私自身もたくさんの人から、いろんなものをもらってきた。

アルバイト先の先輩。

大学時代の先輩。

アルバイト先の店長。

それぞれから、

「言わなければいけないことを伝える強さ」

「隙をさらけ出して人を惹きつける魅力」

「自分をあきらめない姿」

そんなものを、少しずつもらった。

当時は、「今、この人から何かを学ぼう」なんて考えていなかった。

ただ、その人と一緒に過ごしていた。

そして後になって、「ああ、あの人からこんなものをもらっていたんだ」と気づく。

私は、これまでたくさんの人から、

少しずつ「お裾分け」をもらってきたのだと思う。

考え方だったり。

生き方だったり。

強さだったり。

弱さだったり。

自分にはなかったものを、少しずつ自分の中に取り込んできた。アメーバみたいに。(笑)

だから、今の私は、今の私だけではできていない。

たくさんの人との出会いの中で、少しずつできてきた。

講演で、自分の失敗談を話したことがある。

見ず知らずの人に、自分の失敗をさらけ出すのは怖かった。

でも、「もう、言ってしまえ!」という気持ちもあった。

そして講演が終わると、「勇気をもらいました」という感想をたくさんいただいた。

驚いた。

自分にとっては、ただの個人的な失敗だったものが、誰かの背中を押すことがある。

だったら、もう少し丁寧に。もっと深く。自分の経験を伝えてみよう。

以前、一緒に働いていた仲間にも、自分の弱いところを思い切って話したことがある。

自分の中にある、「その場での利益を優先してしまうところ」

「困っている人を見ても、自業自得だと思ってしまうところ」

そんな、できれば見せたくない自分の一面まで話した。

すると相手も、「実は、自分もなんです」と話してくれた。

それまで仕事を中心に話していた二人の人生が、その瞬間、少し触れ合ったような感覚があった。

私は思った。

自分の手札を見せたら、相手も手札を見せてくれることがある。

そして、その人が自分とは違うカードを持っていても、

「それは違う」とは思わない。

もしかしたら、そのカードの一部は、自分の中にもあるかもしれない。

だから私は、人に対してストライクゾーンが広いのかもしれない。

他の人にとっては、「この人はボール」と思うようなところがあっても、

私は、「合わないところがある。でも、それがこの人の全部じゃない」と思える。

教師としては、それが武器だったのかも。

もちろん、現役の頃はそんなことを考えていなかった。

後になって、「ああ、これも自分がもらってきたものだったんだ」と気づく。

そして最近、この生き方を何と呼べばいいのだろうと考えるようになった。

最初は、「与える」という言葉も浮かんだ。

でも、少し違う。

「与える」には、持っている人が、持っていない人に渡すような、

どこか一方通行の感じがある。与えたら減ってしまうから、「誰に与えるか」を選ぶこともある。

でも、「分け合う」には、立場の違いがない。

自分も受け取る。

相手も受け取る。

時間が経てば、今度は自分が何かを返すかもしれない。

相手からもらったものが、自分の中で育って、

また別の誰かに渡っていくかもしれない。

だから、誰かから何かをもらった瞬間に、「ありがとう」だけで終わらない。

自分も変わっていく。

そう考えると、私の人生は、「与えてきた人生」ではなく、

「分け合ってきた人生」だったのかもしれない。

自分の手札を見せる。相手の手札を見る。

「そんなカード持ってたんか!」と驚く。

そして、「なるほど~~!!!」と受け取る。

そうやって、お互いの世界が少しずつ広がっていく。

これからも、自分の手札を隠さずにいたい。

失敗も。

弱さも。

喜びも。

気づきも。

そして、誰かが見せてくれた、自分の知らないカードには、素直に、

「なるほど~~!!!」と言える人でいたい。

それが、今の私が思う、「分け合う生き方」なのかもしれない。

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